先日愛知県の栄で東京医科歯科大学同窓の集まりがありました。この集まりは愛知県で仕事をしている東京医科歯科大学の歯科医師の集まりです。この時、東京から高齢者の入れ歯の専門の水口教授が来られました。そして講演を聞きました。
講演後、食事をしながらみんなでいろんな話に花が咲きました。この集まりはドクターはみんな歳がバラバラで高齢の方は90才近いかたもいました。若い先生はまだ30代です。このようなバラバラな年齢なのですが、大学の昔の時代を懐かしむ話も多少出たのですが、なんと一番この時盛り上がった話は、入れ歯の話でした。
さすがに「へぇー東京からわざわざ教授が参加されたので、そうなのかなぁ」という気もししないでもないですが、難しい入れ歯をどう攻略するかと言うことを延々とみんなで様々な意見が出て大変面白い会でした。特に愛知県からは愛知学院や名古屋大学の教授なども約4名参加されていて、それぞれ専門分野が若干異なるのですが、それぞれの立場から大変面白い意見が出ました。
結論的には、もしその患者様が数本でもいいからインプラントを入れることができるのであれば、それが最も安定する噛み合わせになり、かつ入れ歯を安定させることも容易である。すなわち例えば仮に2本歯が残っていた場合、それ以外の場所に4本ぐらいインプラントを足して、そのインプラントを足場として上に入れ歯を載せてその入れ歯が安定するようにするという方法です。
これは従来から長い間研究されている方法でどのように歯が残っているかにもよるのですが、その時にどの場所にインプラントを何本足すと良いのかと言うことがずっと学会でディスカッションされています。それに対して現場としては、上顎であれば4本、下顎であれば2本、もしかしたら条件が良ければ1本でもいけるのではないかということが発表されています。
一方で、もしインプラントを足さない場合どのような解決策が考えられるかということも深く話題となりました。その場合は残っている歯を背の丈を低くして高さの差を減らして入れ歯の中に隠してしまい利用するのが良いのではないかという意見がやはり出ました。
これは昔から使われている方法で、大きな入れ歯を使っている場合、中途半端に二本ほど歯が残っているとその歯が、かえって足を引っ張ってしまい入れ歯が安定しないということがあるのです。そのためはその歯を削ったり小さくかぶせたりして入れ歯の中に隠れるような形にして入れ歯と一体にしていくと言う手法です。
ここで名古屋大学の教授より大変面白い意見が出て、このような歯を残痕状態にして残す場合入れ歯の縁をどこに決めていくのが良いか、縁をあえて小さくした方が良いと言う意見が出ました。この教授はもともと部分入れ歯の専門家であり、このような方法をとることによって残っている残痕が歯周病になりにくくより長持ちするという自分なりの見解を述べられました。
実はこのような方法はあまり多くはとられていないです。これをやるにはかなり手先が器用なドクターではないとできないと思いますし、よほど戦略的に治療計画を立てないとなかなかうまくいく事はないと思われます。しかし、この教授の述べるようにこの方法をうまく活用できるのであればより長く持つ可能性も出てきて非常に面白い意見だなぁと思って聞きました。
また現在愛知学院で部分入れ歯の専門の教授から大変面白い意見も出ました。それは入れ歯がうまくいくいかないというのは、技術的な問題もあるが、その患者さん本人の気持ち気分の問題もある、だから技術一辺倒で行けるところというのは限られていて、患者さんをどうやって盛り上げていくかという部分も結構大事だよと。
本人が入れ歯ぴったりくっついていて絶対落ちないんだと思い込んでいると、実際には外れるわけだから落胆するわけで入れ歯とどうやって付き合っていくかと言うことをよくよくいろんな例を挙げて話していると言っていました。
訪問診療を専門にやっている元教授も残痕をどのように扱うかということに関して非常に様々な知見を述べられていました。実際患者様が高齢になって自宅療養していたり施設に入っていて歯科医院に通うことができないような場合、そのような残痕は出来る限り早く抜くべきである。特に身動きできなくなるような前にある程度健康な状態でまだ歯科医院に通っている状態、その時にもうこの先に残らないなという根が弱っている歯は抜いておかないといよいよ後で困ってしまう。これから100年時代なので、よくよく計画を考えてお口の中を整理していく先を見据えた治療計画が大事だねということをおっしゃっていました。
このような話の中でとても大切だなと思った事は、やはりドクターは入れ歯が十分に対応できないとインプラントをいくらできても意味がないということです。患者さんは最初からたくさんの歯がないわけではないので、もし歯を1本や2本を失ったときに使うインプラントは1、2本程度足せば良いと言うことになるでしょう。
そのため、この1、2本歯を失った患者さんの対応は確かに入れ歯の対応ができなくてもそこだけを治療すれば良いのでそれでとりあえずインプラントの治療は完成するわけです。しかしその先もっと歯を失うと言うことも想定されるわけです。そしてずっとずっと先には高齢になったときに残念ながら大きな入れ歯になっているということもあり得ます。
そのような状況になったときに、インプラントを何本足すのかあるいは入れ歯をどのようにフォローして使っていくのか、入れ歯の治療計画を十分に考えることが大切になってきます。前回のコラムにも書いていますが、入れ歯とインプラントを並行して付き合っていかなければならない治療期間が必ず存在するわけです。より安定させるためにインプラントを増やしていくわけですがその際にインプラントは治療を行ったその日に上に歯がすぐに入るわけではないですから、すなわちインプラントが安定するまでには何ヶ月も時間がかかるわけです。その間、入れ歯を使っていなければならないと言うことが十分に想定されるわけです。
そのため、やはりインプラントと入れ歯を総合的に活用した治療計画、治療技術が求められます。そうなるとやはり入れ歯というものに関してかなりこだわって治療技術を磨くことが改めて今回の東京医科歯科大学愛知県歯科同窓会の集まりの中での食事会のディスカッションでよくよく痛感したことです。
また、やはり、入れ歯というものはとても人の人生を考える上で面白いものだなぁと思いました。最初はすべて歯があるのですが、人間はやはり歳をとりどうしてもだんだん体は変化し弱くなっていくものです。その中でどうやってアンチエイジングしていくのか、どうやって少しずつ減っていく歯がなくなることをくい止める、もしくは何らかの形で補ってフォローしていくのかとても深い治療だと思いました。
あなたは今もうすでに歯をたくさん失い大きな入れ歯を入れているかもしれません。あるいはまだ2本程度は失っただけなのかもしれません。いずれにせよ、現代は予防の時代でありどんどんどんどん歯をしっかりと残していくということは可能ではあるのですが、人生100年時代において、1本も歯を失わないで走り続けるということはかなり難しい部分もあります。
そのため、もし歯を失った場合、そこをどう補うのか、それをよくよく全体のバランス、お口の中体の健康を総合的に考えて予防を踏まえた補綴治療を考えることが良いのではないかと思います。そういった治療計画において必要に応じて入れ歯を使い、理想的な治療としてインプラントを入れていくことを私はお勧めします。
インプラントができるとなると、歯を磨くなどのメンテナンスも非常に楽で、万が一寝たきりなどの介護状態になったとしても、周りの人がメンテナンスしやすいというメリットも大きいです。お口の中がどんどん汚れていった状態の寝たきりの方は大変危険な状態です。それはお口の中の細菌こそが全身状態を悪くするからです。単に病気、内臓の病気などが病状悪化させていくというよりは、お口の中の余計な細菌が体へどんどん広がっていき本来罹っている病気をより悪化していくということなのです。
つまり、どのようにお口の中を安全な状態を確保できるか、これがかなり重要です。