歯並びなどは遺伝の要素が強いと思っていませんか?例えばお母さんが出っ歯だから娘も出っ歯になった。お父さんは下顎がとても出ているから、この子もしゃくれたような顎が出たような顔になった。このような話を時々患者さんから聞きます。そして多くの親が、特にお母さんが、私が子供の頃歯並びが悪かったのできっとこの子も悪くなるのではないかととても心配です。と言って来ます。
そうですね、以前は歯科医学的に歯並びや顎の形等は70%位遺伝の要素で決定すると言うふうに考えられていました。しかしその後、遺伝の要素はそんなにないのではないかと言う研究が進み、そのパーセンテージはなんと30%位ではないかと言う論文が出てきたのです。さらに現在では遺伝的要素が10%位ではないか、あるいはもっと低い、あまり関係がないと言う論文さえ出てきたのです。親子は当然ですがDNAを半分ほど共有していますので似たような顔になるのではないかと考えられる、のですが、これが実は結構思い込みであるということが近年ではわかってきています。確かに遺伝で親子が似ると言う要素もいっぱいあるのは事実であり間違っていません。
しかしここからがちょっと難しいところでして、出っ歯であるとか歯並びが凸凹している、顎が小さい、あるいは大きい点などに関しては、実は遺伝的な要素はほとんどなくて、生まれてからの生活習慣が大きく影響しているのです。
現代人はどうして歯並びが悪くなるのか?と言う事の研究がだいぶ進んできています。
その原因はかなりわかってきていて、生まれてからどんなものを食べているのか、すなわち我々現代人は現代生活の中でとても柔らかいものを食べています。その結果、顎の周りの筋肉は発達しない、しいては顎の骨自体もあまり成長しないと言うことになり、歯並びがガタガタになっていったりするわけです。
また多くの子供たちは鼻で呼吸せず、口で呼吸をしています。この口呼吸の習慣が、生活が、とても問題です。本来人間の体は鼻で呼吸するように設計されているにもかかわらず、口を開けて口で呼吸しているのです。そうすると舌の位置もおかしい位置となり、口の中で舌があさっての方向へ力をかけて、あごや歯をずらして行きます。そのために上顎が十分に大きくならず下顎だけが前に伸びてしまっているかのような状態の顔になったりしている子もいます。
この口呼吸をどうするか?なのですがこれに関しては、例えば十分に母乳を飲んでいないで育ったと言うことが因果関係があるとも言われています。
ともあれ現在生活の中で子供たちは様々な弊害を抱えて不十分な成長になってしまっていると言うことです。また親子で似ると言うことに関していいますと、それは親がいつも口を開けていれば子供も口を開けているような呼吸をするようになります。生活習慣が親子で似ると言うことです。ですので決して遺伝では無いのですが、後天的な生活習慣の中で、親子が一緒に過ごし、親が間違った呼吸法であるとか発音をしていれば、子供もそれに似通った体の使い方をしてしまいます。その結果歯が出っ歯になったとして、いかにも親子だから遺伝だと思ってしまうわけです。
ここで皆さんによく学んでほしい事は、歯並びは必ずしも遺伝ではないと言うことです。遺伝だから仕方がないと言う事は実は間違っていると言うことです。親が毎日いびきをかいて寝ていれば、いつしか子供もそれが普通だと思い口を開けていびきをかいて寝るようになったりする可能性が高いです。
そういう意味において子供の矯正治療をする際には、できれば親も一緒に生活習慣を見直してみるのが良いきっかけであると思っています。