前回の内容から引き続き、入れ歯の話を進めていきたいと思います。
前回男性の患者様に入れ歯を作りなかなか患者様が痛い、噛めないなどと2ヶ月ほど苦労されたと言う話を書きました。これをもう少し深掘りしていきたいと思います。
入れ歯と言うものはお口の中から外れるのです。ピタッと完全にくっついて全く動かないなどと言う事は無いのです。ですが先に述べた男性の患者様は、多くの期待をして治療を受けていました。今まで自分が苦労してきたことを全部解決できるのではないか?そういう大きな期待を持ってして受けていたので、ちょっとでも入れ歯が外れるとなると、どうしてぴったりくっついていないんだろうとなってしまうわけです。
期待が大きいと、このたび新しい入れ歯を作ったのだからどんなものでもすごく美味しくかめるだろうと思っているわけです。しかし入れ歯と言うものは咀嚼力と言うことを考えたときには、自分の歯で噛む力を100とすると60位です。ちなみにインプラントでは90位まで回復できます。入れ歯でうまくいったとしても60なんです。60%の力なんです。そうすると、期待している人はがっかりすることになってしまうかもしれません。一方もともと入っている入れ歯が全く噛めなければ、60になったとしてもよく噛めると感じて満足されるかもしれません。このようなことがあるわけです。
また以前作ったやつはとても調子が良かったのに今回のやつはあまり調子良くないと言うことを言われる方がいます。これも実は厄介な問題があります。例えば10年に前に作った入れ歯が最初はよく噛めたのだが、今回作った入れ歯はあんまり噛めないじゃないか、と言うのです。これは今回作った入れ歯があまり良くないからそうなのでしょうか?
実はそうでもないのです。10年前と今では顎の筋肉の力が変わっていますし、歯茎の土手の状態も変化していますので、うまく入れ歯ができていたとしてもよく噛めると感じる事は無い可能性があるのです。だんだん老化が進んでいきますから以前は良かったとか前はうまくいったとかそういう単純な話では無いのです。
特に入れ歯と言うものはリハビリと似ているところがあります。歯がだんだんなくなって残っている歯の力も弱くなっていきますし、顎の骨も痩せていきますし、顎の筋肉もとてもどんどん痩せていきます。そのような中でもう一度入れ歯を作り噛み合わせを作りそれをリハビリのように何度も何度も噛みながら筋肉をもう一度鼓舞して復活させて噛む力を安定させるわけです。
例えば交通事故でしばらく寝たきりだった人がじゃぁ明日からベッドから降りて歩きましょうとなった時、最初すごく大変ですよね。すぐに歩けないし、走ったりもできないと思います、これと同じことなのです。ある日入れ歯を入れたから、新しい新品だから、これでバッチリ噛めるという事はなくて、その入れ歯を道具として体に充分なじまして使えるようになるまでしっかりとリハビリをする必要があります。厄介なことにリハビリを大してしなくてももうその日からバッチリ噛めると言うような筋肉の状態の人もたまにはいるので、その両者には大きな差がありますので噛める人とそうでない人では、この差があるためになんで私が噛めないのだろう?入れ歯がおかしいんじゃないかと考えてしまうわけです。
人間の体は刻一刻とエイジングしていきます。エイジングとは老化と言うことです。老化するので様々なものが弱っていくわけです。その弱っていく中で下りエスカレーターの途中でフォローのために入れ歯を入れていると言うことです。この下りエスカレーターは上りエスカレーターに変える事はとても難しいのです。もし上りエスカレーターに変えたいのであればそれはもうインプラントをするしかないわけです。それぐらい強固な足固めをしない限りは上りエスカレーターに乗ると言うことにはなりません。すなわち入れ歯を入れると言うのは下りエスカレーターに乗っているあなたの下りを止めていると言う現状維持、これ以上老化が進まないように、と言うことなのです。