先日半年ぶり位にある患者様が訪れました。この患者様は普段は2、3ヶ月に1度、定期的に掃除や処置などに通っていたのですが、最後の来たときには、次回はもう残念ながら下の歯をぐらぐらですから、抜きましょうと言うことをドクターから説明していて、その予定を決めて帰られたのです。しかしその方は残念ながら次の約束をキャンセルされてきませんでした。しばらく。そしてグラグラの歯はどうなったのかなと言う事はとても心配だったのですが、おそらくドクターとしても本人は仕方ないから、抜かなきゃいけないと言う事はわかっていても、怖いし、嫌だなと思って、なんとなく足が遠のいていたということなんだろうなぁと思っていました。
そしてある時、歯がぐらぐらでもうダメだと言うことで、電話がかかってきて約束を取りました。そして来てみると、確かにぐらぐらでもうこれはダメだと言う状況でした。最初にカウンセリング室で本人の状況や話を色々と相談して聞いていました。すると実は来月家族の結婚式があるのでとても困っている。何とかならないかと言うことだったのです。そして本人の希望としては、このぐらぐらな歯を何とかかけてる部分のかけらを持ってきたのですが、これをもう一度貼り付けて何とかその場しのぎたいと言う希望でした。すなわち歯が抜きたくないと言うことだったのです。
そしてそのカウンセリング室でのお話の後、いよいよ診療室に移りました。ここでドクターがお口の中を確認すると、数ヶ月前の予定の通り、やはりもうさすがにこれは無理でしょうと言うようなグラグラの歯が下の歯に6本ありました。ドクターの治療計画としては、今日まず下の歯の歯型を取り急いで入れ歯を作る。そして1週間位で入れ歯を作り、次にその入れ歯を入れる。当日にその6本を抜く。そうすることによって基本的には歯がない期間と言うのは存在しない。と言う計画でした。この計画の問題点としては、歯を抜いた日に入れ歯を入れるので、その入れ歯は必ずしもぴったりとはまるわけではなく、また新しい入れ歯なので、慣れるのに多少苦労する可能性があると言うことです。まして、家族の結婚式ということがあり、慣れないまま、その結婚式を迎えるのも、多少不安があることになるのではないか?と考えました。ドクターの総合的な判断としては、やはり急いで入れ歯を作って歯を抜くのが1番良いのではないかと思いましたが、というのも本日無理矢理これを固定しても2 、3日で取れる事は十分に考えられるからです。まして、結婚式の前日の夜に取れると言うようなパターンもありますから、そうなるともう目も当てられないと言う状況が待ってるわけです。
しかし、患者様の希望としては、やはり歯を抜かずに、これを何とかかけらをもう一度つけて、無理矢理にでも固定してしのぎたいということでした。そしてそのように処置しました。なぜこのように患者様が思ってしまうのかと言うことに関しては、今まで何度となくもうこれは抜かなきゃいけないかもしれない。だけど抜きたくないと言われ固定を続けてきた期間が1年ほどあったからです。1年ほどは何度も途中で取れたり壊れたりしたけどもどうしても抜きたくないと言う希望を聞いて、いつか取れるかもしれないから抜きましょうねと言う説明をしつつ、しのいでいたわけです。こちらとしてはかなり無理して希望叶えていたのですが、それが逆に良くない期待を抱かせてしまったのかもしれません。
これが人間を治療すると言うことの難しさです。患者様とコミュニケーションをとる事は気にしていますし、当院にはカウンセリング室が2室あり、出来る限り患者様にカウンセリングをするようにはしています。ですが、患者様が必ずしもすべてのことをうまくこちらに伝えることも難しいです。素人ですから何が本当に必要な伝えることなのかわからないですから全部うまくしゃべることもできないし、また患者様からしてみれば、余計なことを言ったら、自分は歯を抜かれるんじゃないかなどと情報を制限している可能性も十分にあるわけです。これは決して悪いことではなく、人だからもう仕方がないことなのです。人と人がうまく全てをコミニケーションすると言う事は、現実的には難しいと思います。そういう中で人は苦労しながらも二人三脚して生きていくものだと思います。今回できる限りこの患者様の期待に答えてあげたいのですが、我々は専門家として1つの治療計画が1番ベストであろう。すなわちそれは歯を抜いて入れ歯を早期に作ることなのですが、やはりそれは精神的に本人にとっては負担であると言うことであり、そのハードルを超えることはできないということです。
ですので、寄り添うと言う事なのです。人はいつも必ず完全にまっすぐな道を歩くこともできないし、最短距離のルートを歩くと言うこともできなく、様々な紆余曲折がありですが、我々はできる限り寄り添いたいと考え応援します。