忘れもしない幼い日、母親に手を引かれて出かけた先は歯医者さん。抵抗も空しく覚悟を決めて「もう降参」と口を開いた辛い思い出。こんな歯科治療の原体験がトラウマになり、大人になっても悪化したまま放置しておく常習者を生み出している。
こうした歯医者嫌いの悪循環に真っ向から取り組もうと試みるのが、東海市に診療所を構える小島先生だ。開院前は東京の大学病院で10年間歯科医師を務めていた経験をもとに、歯科には珍しく管理栄養士を常駐。親子に食生活のアドバイスを行ったり、デザート作り教室も開校し、診療方針を予防にシフトしている。今回の「砂糖を使わないアイスクリーム教室」にも親子連れ40名が参加する人気ぶりだ。
「愛知県にはまだ少ないんですが、東京には子ども用の料理教室がたくさんあって、幼児の頃から受講する子が多いんですよ」。確かに参加メンバーを見渡すと2歳から5歳児が圧倒的で、一見では調理は無理かもという気がする。ところが調理台に背が満たない小さな子も椅子に上って大奮闘、しっかり泡立て器を握る様子も板についている。
では、ここまで影響力のあるレシピって?管理栄養士さんの説明によると、今回砂糖の代用として使われているのはダイエットでもお馴染みのパルスイート。 |
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砂糖よりも甘味を感じるのに、歯への影響が少ないとか。これにキシリトール配合のウエハースでさらにブロックすれば完璧にエナメル質を保護できるらしい。調子のポイントはメレンゲで、卵白と卵黄に甘味料を2回に小分けして加えながら泡立てるのがコツ。ホイップした生クリームとココアを混ぜあわせたら、後は冷凍庫まかせで2時間。と、誰にもできるほど簡単。ハンドミキサーさえあればわずか30分ほどで完成してしまう。しかもメレンゲのおかげで数倍に口溶けが良くなり、いかにも子どもウケしそうだ。
「こんな風に食習慣にちょっと気を配るだけでも、歯の状態はみるみる変わります。親御さんたちも年々賢くなっていますから、これからの歯科の役割は治療を超え、歯の健康を教育するための専門機関に変わっていくと思いますよ」。そう言われて子どもたちにふと目を移すと本当に楽し気、これならば歯医者さんへの抵抗も和らぐはず。なかにはフッソ塗布などの予防に率先して通う優等生が出てくるかもしれない。アイスクリームを頬張る和やかな表情を見ていると、それはますます確信を帯びてきた。先生が意図する未来が「いずれ来る」という予感さえした。
(t-wanG10月号記事) |